日本では深山に生える木というイメージが定着しているが、ヨーロッパでは近縁種のセイヨウトチノキ(マロニエ)は公園に植えられる街路樹だ。パリのマロニエは有名だが、昨年訪れたロンドンも至るところこの木ばかりだった。
ケンジントンパークで大きな実をつけた梢にカメラを向けていると、その木は“Horse
Chestnut"だとマロニエの英名教えてくれた人がいた。「馬栗」とでも言うのだろうか。
「日本の山村ではこの木の実を最近まで食べていた」と私がいうと。“Oh,no,it
is very
hard.”「そんなもの硬くて食えたもんじゃない」と外国人特有の大げさに驚くポーズをしてみせた。
ケンジントンパークは広大な敷地に、何百年かたっているだろうと思われるこの木がいくらでもある。中世から近世にかけて、王室が狩のために手をつけなかった森だと聞いたことがあるが、理由はどうあれこんな広大な森が首都のど真ん中に残されているのは羨ましい。
「馬栗」の果てまで食い物にして経済発展を成し遂げたわが国日本だが、トチノキそのものも高級家具材として食いつぶされてしまったという。今やよっぽどの深山にいかないと、ケンジントンパークにあるような大木にはお目にかかれない。
「こんな公園があっていいですね」私がロンドンのことをそう誉めると、彼は「日本のカメラは世界一だ」と私のペンタックスを誉めてくれた。(1991年6月号)
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