撮れたての自然シリーズ

2 アナマスミレ
Viola mandhsurica var.crassa

1990年4月22日 石川県加賀市
アサヒペンタックス スーパーA タムロンSP90mm F2.5 f5.6 オート(+1) RVP

 アナマスミレはスミレが海岸に適応したもので、日本海沿岸や北日本の砂浜に分布している。
 夏の高温や冬の強風、強烈な乾燥にさらされるかと思えば、時には海水に浸されかねないこともある。砂浜は、植物にとって苛酷きわまりない環境である。
 そんな砂浜に好んで生活する植物には、独特の生活戦術がある。葉質は厚く、水分の蒸散を最小限にくいとめるため、内側に閉じ気味に展開する。限られた水分を有効に吸収すると同時に、不安定な砂浜に確実にしがみつくために根の発達も著しい。
 アナマスミレが花をつける頃の日本海は、とても静かで穏やかな表情を見せるが、海岸の黒松をねじ曲げてしまうほど強烈な季節風の吹き荒れる真冬、砂浜が焼かれて裸足では 立っていられないほど高温になる真夏、これらの厳しい季節をどうやってやり過ごすのだろうか。
 春の朝露に濡れ、白い砂浜に濃い影を落とす濃紫色の花は、そんな季節のことをおくびにも出さないようすだが、葉も花も不必要に伸ばすことのない引き締まった姿には、やはり厳しい環境に生きるもののみが持つ気品を感じずにはいられないのである。 (1991年5月号)

(写真・文 いがりまさし)