夏から秋にかけて咲く植物の多くは春の花とちがって花期の長いものが多い。6月から咲き始めたかと思うと、10月ぐらいまで咲いているものもある。
ところが、このヒガンバナだけは例外で、豊橋近辺ではだいたい9月の15日ごろから咲き始め、10月になるとほとんど残っていない。田の畦に火が着いたように真っ赤になったかと思うと、2週間ぐらいのうちにあとかたもなく消えうせてしまうのである。
その妖艶な美しさは、日本人にとってはどこか異国的であり、あやしげなものとして映ったのだろうか。シビトバナ、ハカバナ、ヒガンバナと、残されている呼び名にはどれも来世的な響きがある。花の時期に葉を出さないのも、どこか無機的でこの世のものではないような感じを与えたのだろう。
しかし、そんなヒガンバナとても、所詮この世の植物で、光合成をしなくては生きていけない。冬から春にかけてヒガンバナの咲いていた田圃にいくと、スイセンの葉を細くしたような葉が生えているはずである。多くの植物が地上でひしめきあう春から夏には地中で眠り、皆が休眠している冬の間を常緑ですごす。その生活戦術は、みごとというほかはない。(1991年9月号)