Saving a Species from Extinction
ヒメオオイワボタン保全プロジェクト
ヒメオオイワボタン個体
Saving a Species from Extinction
2004年 撮影:いがりまさし

ヒメオオイワボタンは大陸に自生するオオイワボタンの変種で、 徳島県のごく狭い範囲に数か所の自生地が知られていました。 1997年に記載されるまで未知の分類群でした。

もともと個体数は多くありませんでしたが,現地は2010年頃からニホンジカの食害が急速に進み、一気に減少が進みました。 2025年の調査で、見つかった集団はわずか2か所で、個体数は開花個体が1個体、未開花個体が10個体前後と大変少なく、 放置すれば数年のうちに絶滅してしまう懸念があります。

この状況を現地で目の当たりにしたいがりと牧は、 早急に保全策をとるために徳島県在住の山城、内藤に協力を求め、 さらに記載者である若林三千男先生にも顧問をお願いし、 2025年7月に「ヒメオオイワボタン保全連絡協議会」を立ち上げました。

ヒメオオイワボタン発見の経緯とその保全について

wakab
若林 三千男(東京都立大学 牧野標本館 元教授)

 ネコノメソウ属のオオイワボタンChrysosplenium pseudofaurieiは、アジア大陸東北部から朝鮮半島、済州島にかけて分布しているユキノシタ科植物です。その仲間が、遠く日本の四国徳島県の山間部に隔離して分布すると判明したきっかけは、京都大学標本庫に未同定のまま所蔵されていた一枚の標本でした。今から35年ほど前のことです。その標本は明らかにオオイワボタンの仲間と同定されました。しかしラベルには採集地は徳島県と記入されていました。日本に分布するはずはないという先入観から、ラベルの入れ間違いではないかと疑ったこともありました。しかし、どうにも気になり、一人現地に調査に出かけることにしました。1993年5月1日のことです。昼頃、現地の山麓に到着し、調査を開始しました。どのように歩いたか記憶は定かではありませんが、日も傾きかけ、諦めてそろそろ帰ろうと山道を下っていた時、ふと右側斜面に明るい光を感じ、そこに鮮やかな黄色の花序をつけた群落を見つけた時、これだ!と実感しました。オオイワボタンの仲間です。やはり日本にも分布していたのです! その時の感激は今でも忘れません。そして標本の大切さが身にしみて感じられた瞬間でもありました。ちなみに、京都大学の標本庫に所蔵されていたこの標本の採集者は高藤茂、採集日1966年5月17日です。
 大陸から遠く離れた四国徳島県にも自生していることが明らかになったわけですが、この日本産オオイワボタンはどのような特徴をもっているのでしょうか。それを理解するため、大陸産オオイワボタンとの形態学的、細胞学的比較検討を行いました。検討材料は、日本産オオイワボタンの仲間については1993年5月1日に得られた材料で、大陸産オオイワボタンについては、各研究機関に収められている乾燥標本の他に、韓国から生植物を入手し、その栽培を通じて得られた材料で検討を行いました。その結果、日本産のものは新変種と認識し、ヒメオオイワボタンvar. nipponense と命名、記載し1997年に論文として発表しました。四国徳島県で発見したオオイワボタンは新分類群として正式に認められたのです。オオイワボタンとヒメオオイワボタとの形態学的、細胞学的差違の内容についてはここでは省きますが、ヒメオオイワボタンの記載論文(Wakabayashi, M. 1997. A new variety of Chrysosplenium pseudofauriei (Saxifragaceae) from Japan, and its morphological and cytological characteristics. Acta Phytotax. Geobot. 48(2): 129-146)を参照していただきたいと思います。
 ヒメオオイワボタンは、長い間大陸から隔離されて生まれた日本固有の貴重な植物と考えられます。日本で独自に進化した植物です。ヒメオオイワボタンの祖先はいつごろ、どのようにして日本に入ってきたのでしょうか。そして四国徳島県の山岳地帯に遺存的に存在しているのはなぜでしょうか。植物地理学的にも極めて興味深い分類群と言えます。
 しかしながら、この貴重な植物が今、絶滅の危機に瀕しています。草食獣による食害が主な原因と考えられます。私達はなんとしてもこの危機を救う手だて考えなくてはなりません。有り難いことに、すでに数人が発起人となり、「ヒメオオイワボタン保全連絡協議会」を立ち上げ、具体的保全活動に動こうとしています。心から敬意を表し、応援したいと思います。そして皆様からのご支援も切にお願いする次第です。
 

応援メッセージ

山下智道(野草研究家)

 私の尊敬する、野生植物の大先生いがりまさしさんから、メッセージを頂き、分かってはいるものの、やはりやるせない気持ちになりました。 ヒメオオイワボタンというネコノメソウが、ここ10年ほどで急速に減少しているらしく、このままでは数年のうちに人知れず絶滅してしまう可能性が高いとのこと。私も世界中の野生植物を追ってきて、やはり日本のみならず、世界中でこのような現場に向き合うことはただあり、いつも同じような気持ちになっていました。いろいろな手法や思いはありますが、私が思うにまずはその存在をしっかり知って頂く,これが非常に大切だと思います。私の活動コンセプトもこの為でもあり、知ることで守れる。これがまずは1番大切なのではないでしょうか。この思いが1人でも多くの方に届き、そしてまた植物の根のように派生することを願っています。

今やるべきこと

1. 未知の残存集団を発見する調査

古い標本では周辺のニュアンスの異なる場所での採集記録があり,知られていない自生地が残されている可能性があります。2025年の調査では,そんな未知の集団(2個体・未開花)を発見できました。その2個体もニホンジカにかじられたあとがあり,放置すれば数年で消失してしまうと考えられました。生育域内保全に加えて,生育域外保全をする場合でも,なるべく多数の集団からの系統を維持することが望ましいと考えられます。現地は山岳地帯であり,探すべき場所は登山道から離れた道のない源頭などで,調査は容易ではありません。

2. 生育域内移植保全

ネコノメソウ属は意外に人工環境での栽培が難しく,特に本種は冷涼な山岳地帯に自生するもので,夏に高温多湿になる環境での栽培は困難と考えられます。そのため,過去に自生していた場所に防護柵を設置し,周辺の残っている個体を移植して保全するのがもっとも効果的だと考えられます。

3. 生育域外保全

生育域内移植保全と並行して,リスク分散を考えて植物園などでの域外保全も試みます。現在,白馬高山植物園でテスト的に1個体の栽培を依頼していますが,さらに多くの施設にご協力を仰ぎたいと考えています。そのために,種子からの再生産や株分けなどによるクローン繁殖についても,取り組む必要があると考えています。

必要な費用

1については,山岳地帯の道のないエリアを踏査する必要があり,体力と経験と志を有する人材を集めて行う必要があります。その交通宿泊費などが必要になります。2については防護柵を設置し,それを維持してゆく費用(恒久的)が必要になります(地権者に許可申請中)。3については,栽培に用いる資材や輸送代金,植物園への報酬などが必要になります。


寄付のお願い

このプロジェクトに賛同していただける方からの寄付をお願いしたいと思います。本会は任意団体であり法人ではありませんので税制上の控除は受けられませんが,お礼として心尽くしの特製ネコノメソウ・クリアファイルをお送りします。

1口 3,000
(何口でも歓迎です) 特製ネコノメソウ・クリアファイル
現在のご支援状況
---
-- 口相当)
(目標 600.000 円/200 口相当 )
達成率

※金額は手動で随時更新しています

ヒメオオイワボタン保全連絡協議会

 発起人代表 いがりまさし(植物写真家)

 顧問 若林 三千男(東京都立大学 牧野標本館 元教授)

 発起人 牧 雅之(東北大学 学術資源研究公開センター 植物園 教授)

 発起人 山城 考(徳島大学大学院社会産業理工学研究部 准教授)

 発起人 内藤 芳香(徳島県立博物館)

 発起人 伊東 拓朗(東北大学 学術資源研究公開センター 植物園 助教)