ホーム > いがりまさしの仕事 > 単行本 > 四季の野の花図鑑 > 書評
副島顕子(大阪府立大学理学研究科生物科学科)書評
情感のある写真図鑑

 「四季の」とありますが,
  この本の最大の特徴は一年を24の季節に分ける「二十四節気」に従って,
  植物の開花を追っていることにあります.
  春と一口にいっても,
  「立春」に始まり,
  雪が雨に変わるという「雨水」,
  「春分」...
  やがて穀物の生長を助ける「穀雨」となれば,
  まだ春の名残を感じる「立夏」が目の前です.
  「二十四節気」は,繊細な季節感を持つ日本人の感性が生み出したものですが,
  この図鑑はその微妙な季節の移り変わりを植物達も敏感に察知していることを教えてくれます.
  24の季節の扉を開くのは,
  移ろう季節の光や風の気配を捕らえた美しい写真と,
  簡潔でいて情緒のある短い文章.
  図鑑というより歳時記の趣さえあります. 
  その一方,植物の名前を知る上では,
  コンパクトなのに密度が濃くて質の高い写真図鑑です.
  よく似た植物をできるだけ多く取り上げて,
  その見分け方のポイントを的確な写真で示してあるので,
  検索表をたどるのが苦手な初心者でも正しい植物の名前に到達できますし,
  分類学的に新しい情報も盛り込まれているので専門家にとっても不足はありません.  
  役に立つ図鑑,美しい写真集は他にも数多くありますが,
  学術的厳密さと詩的情緒を両方満たしてくれるこの本は,
  科学者の目を持つ詩人でもあるいがりさんならではの味わいです.